医学的には目によって光を感じることがない状態をいうが、光の弁別の有無にかかわらず日常生活に著しい不便を伴う視覚障害を含めることがー般的である。視覚の障害には、視力・視野・色覚・光覚・眼球運動障害などがあるが、視力の障害を中心に評価されることが多い。失明とする視力の限界については議論が古くからあり、また、国や地域、基準を設ける目的によりさまざまである。
視力検査表を用いた検査で、小数視力で0.01が得られない場合、目の前の検者の指の数が答えられるときは「指数弁」として、指と目との距離を測定する。これに満たない場合は、眼前の手の動きが判断できる場合を「手動弁」、手の動きがわからない場合はペンライト等で目に光を当てて認識できれば「光覚弁」とする。日本の労働者災害補償保険法施行規則の認定基準では、失明は「眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を弁じ得ないもの及びようやく明暗を弁ずることができる程度のものをいい、光覚弁(明暗弁)又は手動弁が含まれる」とされている。この基準では、眼前50センチメートルの指の数を弁ずるものは小数視力0.01と同等の扱いとして、失明には含めていない。
特定の地域あるいは、国、世界中に重い視覚障害をもつ人がどのくらいいるかは、公衆衛生上の重要な指標になるため、さまざまな手段で調査が行われている。
近年のグローバルな調査では、視覚障害を、「失明(blindness)」と「中・重度視覚障害(moderate and severe visual impairment:MSVI)」と分類して調査されるようになっている。世界保健機構(WHO)基準では、「失明」は良い方の目の矯正視力が0.05未満である状態、あるいは視野が10度未満のものとしている。「中・重度視覚障害」は、「現視力(present vision)」、すなわち日常で眼鏡やコンタクトレンズを使った視力かそれらの手段をもっていなければ、矯正用具なしの視力が0.05以上0.3以下に相当するものになっている。
近年は、社会経済状況の高度化と平均寿命の延長が進み、健康を阻害するおもな要因が急性の感染性疾患から慢性疾患や加齢と関連する障害にシフトしている。失明や視覚障害を招く要因もトラコーマ、オンコセルカ症などの感染性眼疾患から慢性疾患への変移が観察されている。
2010年から2019年のデータをもとに行われた研究では、この間に50歳以上の成人における回避可能な視力障害の粗有病率に変化はないが、症例数は増加している。2020年の、50歳以上の成人における世界の失明の最大の原因は白内障であり、1500万人以上が失明しており、世界の失明症例約3360万件の約45%を占めている。次いで多い原因は順に緑内障、矯正されていない屈折異常、加齢黄斑(おうはん)変性症、糖尿病網膜症があげられている。白内障は手術治療により多くが解決へと導かれるが、緑内障と加齢黄斑変性は加齢とともに進行する疾患である。MSVIにおいても、白内障が矯正されていない屈折異常に次ぐ原因になっている。一方で、小児期における失明は、140万人(全体の4%未満)と推定されており、数字のうえでは決して大きいものではないが、その75%はアフリカとアジアの子どもたちと推定されている。小児期の失明は、心身の発達や教育への影響、生涯にわたる視覚障害から、その対応と予防は重要である。グローバルには、ビタミンA欠乏症(角膜軟化症)、先天性白内障、眼感染症(麻疹(ましん)、淋菌(りんきん)、風疹)、未熟児網膜症がおもな原因となっている。
日本でも、失明および視覚障害の実態について、さまざまなアプローチで調査が行われている。厚生労働省が2016年(平成28)に行った「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によれば、22万7000人がWHOでの失明の定義に近似する視覚障害身体障害者1級と2級の視覚障害をもつと推定されている。現在は、2018年に改正された新しい視覚障害程度基準(後述)をもとに認定が実施されているが、2019年度1年間の身体障害者手帳の新規交付手続きの集計報告によると、1級から6級に認定された視覚障害の対象者のうち、1級あるいは2級の認定が約58%を占めていて、それらの原因疾患としては緑内障、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、黄斑変性症の順で多いことが示されている。小児期の視覚障害は、前述のように成人と大きく異なる性質をもっているため別途、検討が必要であるが、国内の医療機関からの報告では、小児期の重い視覚障害の原因となる目の疾患は、未熟児網膜症がもっとも多くを占め、小眼球などの先天異常や遺伝性眼疾患がこれに次ぐとされている。学校での調査では、2023年(令和5)の「学校基本調査」から未成年の視覚障害の実態を推定すると、視覚障害を有する特別支援学校在籍者数は約4700人、このうち視覚障害のみを有する児が1500人、身体障害や神経疾患などによる重複した障害をもっている在籍者が約3200人となっている。重複した障害の原因として、低酸素脳症、脳炎、外傷、遺伝性疾患などでおこる大脳性視覚障害(cerebral visual impairment:CVI)が、小児における重度の視覚障害のおもな原因になっていることが推定される。
身体障害者福祉法施行規則別表第5号「身体障害者障害程度等級表」では、視覚障害は以下のように分類されている。
〔1級〕
視力の良い方の眼(め)の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ)が0.01以下のもの
〔2級〕
(1)視力の良い方の眼の視力が0.02以上0.03以下のもの
(2)視力の良い方の眼の視力が0.04かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの
(3)周辺視野角度(Ⅰ/4視標による、以下同じ)の総和が左右眼それぞれ80度以下かつ両眼中心視野角度(Ⅰ/2視標による、以下同じ)が28度以下のもの
(4)両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が20点以下のもの
〔3級〕
(1)視力の良い方の眼の視力が0.04以上0.07以下のもの(2級の2に該当するものを除く)
(2)視力の良い方の眼の視力が0.08かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの
(3)周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ80度以下かつ両眼中心視野角度が56度以下のもの
(4)両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が40点以下のもの
〔4級〕
(1)視力の良い方の眼の視力が0.08以上0.1以下のもの(3級の2に該当するものを除く)
(2)周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ80度以下のもの
(3)両眼開放視認点数が70点以下のもの
〔5級〕
(1)視力の良い方の眼の視力が0.2かつ他方の眼の視力が0.02以下のもの
(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
(3)両眼中心視野角度が56度以下のもの
(4)両眼開放視認点数が70点を超えかつ100点以下のもの
(5)両眼中心視野視認点数が40点以下のもの
〔6級〕
視力の良い方の眼の視力が0.3以上0.6以下かつ他方の眼の視力が0.02以下のもの