遺伝子配列の個人差を元に、ひとりひとりの薬への感受性や副作用のおこりやすさなどの体質に合わせて実施する医療。ヒトがもつ約30億塩基対の遺伝子の全遺伝情報の解析を目ざして1988年に始まった国際プロジェクト「ヒトゲノム解析計画」が2003年に「解読完了」を宣言した前後の時期、その成果を生かした医療の将来像として人口に膾炙(かいしゃ)した。同じ意味の和製英語に置き換えたオーダーメイド医療のほか、個別化医療(パーソナライズドメディシン)、精密医療(プレシジョンメディシン)もほぼ同様の概念をさす。また、近年はゲノム医療という呼び方が一般化しつつある。2023年(令和5)6月に施行されたゲノム医療法(令和5年法律第57号)は、第2条で「ゲノム医療」を「個人の細胞の核酸を構成する塩基の配列の特性又は当該核酸の機能の発揮の特性に応じて当該個人に対して行う医療」と定義し、その推進を目ざしている。
テーラーメイド医療の概念が実用化された例の一つにがん遺伝子検査があげられる。肺がん、大腸がんなどがんの種類別に薬剤を選んでいた従来の治療に対し、2000年代以降、原因となる遺伝子変異の有無をまず診断薬(コンパニオン診断薬)で調べ、それに対応する分子標的治療薬を使う治療が発達した。
分子標的治療薬とコンパニオン診断薬は原則的に1対1で対応している。こうしたコンパニオン診断に加え、2019年6月には複数のがん関連遺伝子の変異を網羅的に調べられるがん遺伝子パネル検査が公的医療保険で受けられるようになった。標準治療が終了した患者や標準治療がない患者が対象だが、検査の結果、原因となる遺伝子変異が見つかった場合でも対応する薬剤がない事例など、一定の限界がある。