ブナ科(APG分類:ブナ科)の常緑高木。高さ10~15メートル、直径1メートルに達する。萌芽(ほうが)性が強く、株立ちになることが多い。樹皮はほぼ平滑で暗褐青灰色。葉は枝先に集中してつき、革質で長さ10~20センチメートル、鋸歯(きょし)はない。雌花序、雄花序とも穂状で、初夏新芽の腋(えき)から斜め上に出す。花は虫媒花。堅果は翌年の秋熟し、殻斗(かくと)に浅く包まれ、長さ2~3センチメートル。褐色で白粉を帯び、不明瞭(ふめいりょう)な横輪が入り、底の着点はややへこむ。渋味がなく生食できる。和名マテバシイの語源には諸説があり、葉がマテガイの形に似ているから、という説や、シイより味が落ちるが「待てばシイの実のようにうまい実がなる」という意味である、という説などがあるが、はっきりしない。九州から沖縄の海岸近くに自生し、潮風に耐え、防風林とする。また、本州から沖縄まで、植栽されたものが広く見られる。公害にも強く、都市の緑化樹としてよく用いられる。小枝は細く分枝し、ノリのひびにも使われる。マテバシイ属はアジアの暖帯から熱帯に300種以上あり、とくに中国に多く、柯の字をあて、よく似ているシイ属(栲の字をあてる)と区別している。
果実はあく抜きせずに食べられるので、縄文時代人の重宝な食糧であったとみられ、千葉県加茂の縄文前期の貝塚からは、歯形のついた果実が出土している。房総などでは種子をひいて粉にし、ゆでて食べた。『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(1803~1806)では薩摩椎(さつましい)として記述されているが、『紀伊続風土記(きいぞくふどき)』(1806年編纂(へんさん)開始)には薩摩椎とともに末天葉椎(まてはしい)の名があがっているが、『熊野物産初志』(1848)では「マテバシヒ」の名のみとなる。マテバシイはその葉がマテガイの形に似るからともされるが、九州や千葉県ではマテジイの名も広く、これはシイよりも細長い果実がマテガイに類似するからといわれる。葉も果実もマテガイを思わせるのでつけられた名といえよう。