小口貨物輸送の一形態。法律での明確な定義はないが、国土交通省の宅配便取扱い個数の調査では、「一般貨物自動車運送事業の特別積合せ貨物運送又はこれに準ずる貨物の運送及び利用運送事業の鉄道貨物運送、内航海運、貨物自動車運送、航空貨物運送のいずれか又はこれらを組み合わせて利用する運送であって、重量30キログラム以下の一口一個の貨物を特別な名称を付して運送するものをいう」としている。
宅配便(トラック)は、東北地方の中堅トラック輸送企業である三八五貨物(みやごかもつ)が1974年(昭和49)に初めて開始したとされ、その後1976年には「宅急便」(ヤマト運輸)、1977年には「ペリカン便」(日本通運、2010年撤退)、1981年には日本運送(1990年フットワークエクスプレスに社名変更、2001年撤退)などが参入し、一時は36業者に達した(2001年度)。各宅配事業者が、動物を表す名称をブランドとして使うことが多かったため、動物戦争ともいわれた。その後、撤退する事業者もみられ、22業者となった(2022年度)。一方、佐川急便は、従来は特別積合せ貨物運送事業を展開していたが、1998年(平成10)に宅配便事業に参入、日本郵便は2007年(平成19)10月の郵政民営化に伴い、貨物自動車運送事業法等の適用を受けることとなったため、宅配便の事業者扱いとなった。
宅配便は、路線(現在は特別積合せ)トラック輸送の一変種として発生し、以後、独自の発展を遂げたもので、その輸送システムは基本的には特別積合せトラックと同じである。特別積合せ輸送は、宅配便に比較してやや大きい貨物を、発荷主の戸口から発ターミナルまで小型トラックで集貨し、そこで方面別に仕分け、輸送用大型トラックで着ターミナルまで輸送し、そこで配達区域別に仕分け、着荷主まで小型トラックで配達するという輸送システムを構築している。これに対し、小さい荷物のみを対象とする宅配便は、戸口までの集配、短い到着日数、重量建てでなく1個建てであり、距離制でなく輸送先地帯別で、それぞれに固定額が定められているなどのわかりやすい料金設定となっている。また、30キログラム以内の荷物なら運んでもらえるといった利便性から、利用者に広く受け入れられ、われわれの生活に欠かせないサービスとなった。宅配便は、高度な情報システムを構築しており、利用者自身がインターネットにより業者の宅配情報システムにコンタクトして、自身の荷物の追跡(移動中の位置確認)を行えるようにもなっている。
宅配便の取扱い個数は、2022年度(令和4)で50億0588万個(うちトラック運送は、49億2508万個、航空等利用運送は8080万個)となっている。トラック運送による宅配便は、上位5事業者で全体の約99.9%、さらに、「宅急便」(ヤマト運輸)、「飛脚宅配便」(佐川急便)、「ゆうパック」(日本郵便)の上位3事業者で約95.0%を占め、寡占体制となっている。宅配便市場は順調に伸びてきたが、これまで何回か市場は飽和しつつあるといわれたことがある。しかしそのたびに、新たな需要が生まれてきた。
たとえば、物流の「軽薄短小」の進展による小口貨物輸送需要の急激な増加がある。さらに注文してから短い時間での納品が求められるなか、翌日配送などのサービスを提供することによって、宅配便市場は拡大してきた。そして、近年の宅配便の伸びは、ネット通販によるところが大きい。そのような状況のなか、ネット通販を中心とした取扱い個数の急増に、輸送能力がまにあわない宅配危機という事態が2017年に表面化した。その結果、大手宅配事業者が、総量規制、運賃の値上げ、当日配送の中止を発表した。その後、輸送体制の整備、外部委託化により、解決方向に向かったものの、ドライバー不足への対応は依然として大きな課題となっている。さらに、2024年4月から実施されているドライバーの労働時間の上限規制への取り組みも不可欠となっている。
また、宅配便においては、再配達が大きな問題となっている。大手宅配事業者3社の調査による家庭向け宅配便の再配達率は、2017年度、2018年度は約15%であった。その後、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)拡大の影響により在宅率が高まって8.5%まで減少したものの、2023年度は約11%となっている。不在による再配達が多いと、多くの配達員が必要となる。また、トラックが長い距離を走ることになるため、環境問題の面からも好ましくない。再配達は、宅配事業者の配送効率を悪くするだけでなく、社会経済的損失という側面もある。再配達をなくすため、時間帯指定の活用、各事業者の提供しているコミュニケーション・ツール等(メール・アプリ等)の活用、宅配ボックス、置き配、コンビニ受取、駅の宅配ロッカーなど、多様な受取方法の活用が求められている。