物質を高温に加熱すると、電子が放出される現象。1884年エジソンが、真空電球に2本のフィラメントを入れ加熱すると、接続していない2本のフィラメント間に容易に電流が流れることからこの現象を発見し、また1901年イギリスのO・W・リチャードソンが系統だてた理論を発表したので、エジソン効果あるいはリチャードソン効果ともよばれる。金属に例をとると、自由電子は金属中で自由に動くことができるが、金属より外に出るには、一種の障壁があって容易に出られない。しかし高い運動エネルギーをもった電子は、その壁を乗り越えて外に出ることができる。この壁の高さをその金属の仕事関数Wといい、この仕事関数より大きい運動エネルギーをもった電子は、金属の外に出ることができる。金属の温度を絶対温度でTとすると、金属から単位時間に放出される熱電子の数Neは
Ne=AT2e-W/kT
の形に表される。この式はリチャードソン‐ダッシュマンの公式といい、eは自然対数の底、Aは係数、kはボルツマン定数となっている。この式によれば、金属の温度が高いほど、また仕事関数が小さいほど、放出される熱電子の数が多いことになる。
熱電子放出をもっとも直接に応用して発達したものに真空管がある。それまでは気体中の放電によってしか取り出せなかった電子の流れを、真空中でも金属を加熱さえすれば容易に取り出せることを利用し、その電子の流れを第三電極で制御する装置が真空管である。仕事関数の小さい物質としてセシウム、バリウム、ストロンチウムなどの金属やその酸化物があり、これらが真空管やブラウン管にも用いられている。蛍光ランプ、高圧水銀ランプなどのアーク放電においても熱電子放出の現象が寄与しており、電極には酸化バリウムなどの仕事関数の低い酸化物が塗布されている。