電子線ともいい、真空中の電子の流れをさす。もともと真空に近い薄い気体中での放電(真空放電)による陰極からの電子の流れをさしていたが、その後、放電によらなくても、真空中で高温に加熱された陰極から放出される(熱電子放出)電子も陰極線とよばれるようになった。陰極線は気体を電離する能力や種々の物質への蛍光作用、写真乾板の感光などの働きをもち、高電圧で加速するとX線を発生させる。
以上の性質から、陰極線はエレクトロニクスの分野で広く利用されていた。たとえば電子の流れの方向を磁界や電界により自由に変えられるようにして電子の当たる面に蛍光体を塗布した真空管は、ブラウン管とよばれる。ブラウン管は陰極線管の代表として、科学研究や生活に欠かせないものになっていたが、テレビ用や科学研究用オシロスコープは技術進歩により液晶画面などに置き換えられている。一方、X線管はX線によって、医療をはじめ非破壊検査など、種々の物質の透視に用いられる。さらに電子顕微鏡は電子線の電子光学的結像によって、超微小な世界を見ることを可能にしたものである。
1858年プリュッカーが100万分の1気圧程度の低圧気体中の放電において、陰極に向き合う陽極付近のガラス管壁が蛍光を生じることを発見した。これは謎(なぞ)の放射線とされていたが、その後、ヒットルフやクルックスらによって、それが負電荷をもった粒子の流れであることが確認された。1876年に、この粒子線に陰極線という名を与えたのはE・ゴルトシュタインで、その正体が原子の主要な構成要素である粒子、つまり電子であることがJ・J・トムソンによって推測された。陰極線の発見と解明は原子物理学の発展に大きな貢献をしている。