電気を帯びた電子や陽子などの荷電粒子を交流の電圧のもとで直線的に走らせ、高いエネルギーまで加速させる装置で、線形(直線)加速器またはリニアック(linac)ともよばれる。高周波技術の進歩に伴って急速に発展した装置で、医療用・工業用・研究用などとして利用される。
その構造は、円柱形の空洞の中に、中空の円筒形の電極が一直線上に多数並べられたものである。空洞内は真空で、円筒形の電極は、一つおきに交流の電極とつながっている。電気を帯びた粒子は、第一の円筒の電極と第二の円筒の電極の間に加えられた電圧を受けることで加速されて、第二電極の円筒の中へ走っていく。このとき、電源の正負が逆転することで、第二電極から第三電極への粒子はさらに加速されて走ることとなる。粒子が一つの電極から次の電極に進む時間が、交流の電源の周期の半分と一致するように円筒の長さを調節することで、粒子は次々と各電極間で高エネルギーに加速される。
円形加速器では円軌道を周回する際にエネルギーを失うので、その損失を補うために円の半径を大きくする必要がある。つまり高エネルギーになるにつれて大型の加速器が必要となることから、得られるエネルギーは限界に達している。この課題を解決する大型の線形加速器としてはスタンフォード線形衝突型加速器(SLC)が知られているが、最近では超電導加速技術を採用することで加速効率を向上させ、同時にナノビーム技術(ビーム断面をナノメートルサイズまで絞り込み、これにビーム位置を高精度で制御する技術)で衝突頻度を高める国際リニアコライダー(ILC)が開発中である。また、線形加速器は、円形加速器であるシンクロトロンに粒子を入射するための前段階用の加速器として使用されることもある。
1950年代前半から、それまでの200キロボルト(kV)程度の高圧X線管を用いた治療にかわり、1.17メガ電子ボルト(MeV)および1.33MeVのγ(ガンマ)線を放出するコバルト60大量遠隔照射装置が放射線治療装置として普及していたが、使用済みコバルトの廃棄問題や深部腫瘍(しゅよう)に対して用いるにはエネルギーが比較的低いといった問題を有していた。これらの問題を同時に解決する治療器として、電子を加速させる小型の線形加速器を用いた高エネルギー電子線およびX線の治療装置が1955年にスタンフォード大学に導入され、その後は主たる外部放射線治療器として世界的に普及している。日本国内では1963年(昭和38)以降、普及が進み、2023年(令和5)時点で850以上の装置が導入されている。また、陽子線や重粒子線などの粒子線治療では、シンクロトロンへの入射器としても使用される。