アフリカ豚熱ウイルスの感染によっておこるブタやイノシシの急性熱性伝染病。略称、ASF。日本では、過去には本病をアフリカ豚(とん)コレラ、その原因となる病原体をアフリカ豚コレラウイルスとよんでいたが、人間に感染するコレラ菌による疾病とは無関係であるとして、2020年(令和2)の家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)の改正により名称変更された。伝染力も致死率もきわめて高く、家畜伝染病に指定されている。豚熱と症状は似ているが、原因ウイルスが異なる、別の感染症である。
本病が初めて確認されたアフリカでは、イボイノシシとダニの間で感染環が形成・維持されており、イボイノシシは無症状で感染している(不顕性感染)。しかし、ダニの吸血によりブタあるいはイノシシ(イボイノシシとは別種)が本ウイルスに感染すると、年齢、性、季節を問わず容易に発病する。ブタやイノシシの群れ、他の農場間へのウイルスの伝播(でんぱ)にダニは必須(ひっす)ではなく、ウイルスは消化器または呼吸器からの経路で侵入し、動物間の接触やウイルスに汚染された豚肉やイノシシ肉を非加熱で給餌(きゅうじ)することにより感染が拡大する。5~7日の潜伏期を経て、40.0~41.5℃の高熱を発し、元気消失、沈鬱(ちんうつ)、白血球の減少などの症状がみられ、体表の各部に特徴的な出血斑(はん)を生じ、急性死する。一方、感染後死亡するまでに3~4週間と経過が長い場合や、致死率が数%と低い慢性的な感染を引き起こす場合もある。
日本では、2024年時点ではブタにも野生イノシシにもアフリカ豚熱の感染事例はなく、国際獣疫事務局(WOAH)により本病に対する清浄国として認定されている。もし感染が確認された場合、畜産業界に大きな被害を与えるおそれがあるため、今後もウイルスを国内に持ち込ませない動物検疫の強化と各農場における衛生対策の徹底が重要になる。また、豚熱と異なりアフリカ豚熱に対しては有効なワクチンが実用化されていないため、2007年以降に流行が確認されているヨーロッパやアジアでは、養豚場における早期発見と迅速な防疫対策が進められている。これらの地域では、野生イノシシにおける本病の感染拡大が問題となっており、野生イノシシの個体数管理やアフリカ豚熱に感染して死亡したイノシシからのウイルス拡散を防止する対策が行われている。治療としては有効な薬物はなく、日本では家畜伝染病予防法およびアフリカ豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針に基づき、発生があれば殺処分による防疫措置がとられることとなっている。