中国が各国の大学等と提携して設立する中国語および中国文化の普及に関する教育機関、文化交流機関の総称。中国教育部直属の中国国家漢語国際推広領導小組弁公室(「国家漢弁」)が管轄し、2020年7月からは中国国際中文教育基金会が直接の運営にあたり、国外の学院はその下部機構となる。中国の大学と外国の大学が提携するもののほか、中国の大学と海外現地の機関・企業との提携、および中国の中学校・高等学校と外国の中学校・高等学校の提携などさまざまな形態があり、提携先が大学、研究機関の場合「孔子学院」と称し、それ以外は「孔子課堂」という。
2004年に開始されたこの孔子学院設置プロジェクトは、同年11月ソウルに初めての海外学院が設置されて以来、2019年末までに162か国・地域に550校が設置され、「孔子課堂」も1172校設置されている。中国内外の専任・非常勤講師の総数は約5万人、学生・受講生の総数は2500万人に達している。孔子学院は、単なる語学教育機関にとどまらず、中国の伝統文化の紹介、文化事業・文化産業の普及を通じ、中国に対する好意的な国家イメージを醸成するものとして、ソフトパワーの強化を目ざす中国の対外文化発信の一翼を担っている。
日本には、2005年(平成17)に立命館大学に設置されて以来、桜美林(おうびりん)大学、愛知大学、立命館アジア太平洋大学、早稲田(わせだ)大学、工学院大学、武蔵野大学など15以上の教育機関に設置された。
「孔子学院」は、ドイツのゲーテ・インスティテュートやフランスのアリアンス・フランセーズ、スペインのインスティトゥト・セルバンテス、イギリスのブリティッシュ・カウンシルを模してつくられたとされ、中国語のほか、漢方医学や中国の歴史、文化、社会、武術、演劇、剪紙(せんし)などについても教える。
ただ、他国の文化交流・教育機関とは異なり、設置先の別科や専修科といった大学組織のなかの一部局として設置され、かつ教学の運用は設置先大学からほぼ独立した自治形態を保持して活動する点が際だった特徴となっている。具体的には、中国から資金と教員、教材が提供され、教育内容は国家漢弁から認可を得ることとされており、国家漢弁は、助成金を交付するほか、海外の孔子学院・孔子課堂で教える中国人教師の給与および海外生活手当の全額または相当額を支払う。これらの点から、孔子学院は設置先の教学の自由、大学自治を脅かすものとする警戒感も根強い。
欧米では中国のプロパガンダ機関であるとの批判も強く、とくにアメリカでは、中国共産党の浸透工作の一環を担う中国政府機関にして「国家安全保障の脅威」(ポンペオ国務長官)とみなされ、2014年シカゴ大学、ペンシルベニア州立大学がキャンパス内の孔子学院を閉院して以降、孔子学院の閉院、解消が相次いでいる。日本でも、2021年(令和3)に工学院大学、2022年に兵庫医科大学がそれぞれ閉院し、3校目となる福山大学が2024年3月に閉院した。新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の流行や日中関係の悪化に伴う生徒数の減少という事情もあるが、孔子学院そのものへの世界的な警戒感がこの背景ともなっている。