東京から遊びにいらした恩師の旅の楽しみは、難読地名をメモしながら散策することである。これが旅先の由来を紐解いたり、旅の記憶を呼び起こしたりするきっかけとなるので、旅の後からも楽しめて、やり始めると癖になるそうだ。特に京都は、旧石器時代以来、連綿と社会生活が受け継がれてきたので、不思議な地名や面白い通り名、まったく読めない名称などが、そこかしこに溢れている。筆者の難読地名の記録もずいぶん増えてきたので、気になるユニークな名称に絞りながら、数回に分けて時々お披露目していきたい。最初は、よく知られた観光名所から始めてみよう。

 一つ目の地名は「先斗町」。「ぽんとちょう」と読む。正確には先斗町通(どおり)といい、新河原町通という異名もあるが、実際には聞いたことがない。鴨川の西側に沿い、三条大橋の南を北へ四条に抜け、最後は木屋町通(きやまちどおり)と合流する通り名である。江戸時代の文化・文政年間の頃から、鴨川の河原を使って営む酒亭が増え、これが徐々に今日あるような料理屋の「床」になった。通りの中ほどに歌舞練場があり、京都を代表する遊興街といえる。名称の由来は、なんとポルトガル語という説が濃厚だ。「州浜の先端」という意味のポルトガル語が訛り、「ぽんと」という名称になったといわれている。

 二つ目は「壬生(みぶ)」である。鑑真の開山とされる壬生寺や無言劇「壬生狂言」が有名で、新撰組のゆかりの地ということもあり、地名を読める人は多いだろう。だが、由来をご存じの人はあまりいない。「みぶ」の起こりは、平安期の呼称であった「水生(みぶ)」という地名に始まっている。この辺りは平安京の中心の朱雀大路(すざくおおじ)が通っていたが、当時は多くの湧き水のある場所であったため、「水生」という呼称で呼ばれていたという。それが後に「壬生」となった。「壬生」とつく地名は付近に数多くあり、そのほとんどは、江戸期から明治にかけて付けられた町名である。


居酒屋や割烹、料理店、お茶屋が密集して建ち並ぶ先斗町。近く電柱埋設が予定されている。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 4月14日21時26分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県益城町(ましきまち)では震度7を観測した。

 さらに2日後の4月16日1時25分頃に同地方を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生し、熊本県益城町と西原村で震度7を観測した。気象庁は14日の地震を「前震」、16日の地震を「本震」としている。

 気象庁が1949年に震度7の震度階級を設定して以降、日本国内における震度7の観測は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災、2004年10月23日の新潟中越地震、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に続いて4回目で、九州地方では初の観測であった。

 4月26日の時点で地震による死者は49人(関連死は14人)になっている。

 私は阪神淡路大震災が起きた2週間後に神戸市長田区を取材している。東日本大震災は1か月後の4月はじめに福島第一原発の敷地近くまでクルマで行き、南相馬市、いわき市、浪江町を2日かけて回ってきた。

 また東日本大震災の翌日に起きた長野北部地震で震度6強の地震に見舞われた長野県栄村には、翌年の3月12日に行き、被害に遭ったお年寄りたちから話を聞いている。

 長田区は地震直後に起きた火災が甚大な被害を与え、東日本では地震直後の津波が多くの人命を奪った。

 栄村も人的被害を受け、家屋も全壊が189、半壊・一部損壊が789と被害が出たが、一年後にはかなりの家が復旧していた。聞いてみると、ここは豪雪地帯(昭和20年2月12日に観測史上最高の7m85cmを記録)のため、造りが頑丈にできているのと、大地震などに対応するために地震の力を逃す工法を取り入れているところが多く、傾いても元通りに復元しやすいのだそうだ。

 熊本大地震は震源が内陸だったため津波が起きなかったことと、火災は起きたが広範囲に広がらなかったことが、せめてもの救いであった。

 だが、16日以降も大きな余震が続き、避難所やクルマの中で生活する人たちが多くいる。断水・停電などによって衛生環境が悪化したために、伝染病が広がらないかという心配も出てきている。現実に熊本の避難所で暮らす男性2人からノロウイルスが検出された。また地震予知の専門家たちは否定しているが、今回の地震が南海トラフ巨大地震(フィリピン海プレートとアムールプレートとのプレート境界の沈み込み帯である南海トラフ沿いが震源域と考えられている巨大地震で、政府は被害想定を「死者32万人」と予測している)の前兆ではないかと危惧されている。

 さらに心配なのは、今回の地震の震源地から半径約150キロ圏内には3つの原発があることだ。鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原発、佐賀県の九州電力玄海原発、愛媛県の四国電力伊方原発で、川内は2015年に1号機、10月には2号機が再稼働している。

 『週刊文春』(4/28号、以下『文春』)は「原発は本当に大丈夫か?」という巻頭特集を組んでいる。

 『文春』によれば、地震直後の18日の衆議院TPP特別委員会で、丸川珠代環境相兼原子力防災担当相が、答弁を要求されていないのに自ら立ち上がり、こう発言した。

 「(原子力)規制委員会において、今のところ安全上の問題がないと判断されたと報告を受けております」

 これを拙速な安全宣言だと『文春』は批判している。

 玄海、伊方も近いうちに再稼働が見込まれている。今回の地震の震源は熊本から大分に向かって北東へ移動しているが、延長線上には川内と伊方原発が位置しているのだ。

 特に川内原発は「過去に巨大噴火を起こした桜島周辺の姶良(あいら)カルデラ(陥没地形)などに囲まれた“火山銀座”の内側にある」(『文春』)ため、「全国の原発で最悪の場所にあると言える」(井村隆介鹿児島大准教授)

 4月6日の川内原発差し止め裁判で、福岡高裁宮崎支部は住民側の抗告を棄却したが、一方で「最新の知見でも噴火時期や規模の的確な予測は困難な状況。規制委が的確に予測できることを前提に立地評価している点で、不合理といわざるを得ない」と付言しているのだ。

 それにもかかわらず九州電力は、川内原発を再稼働した後に「免震重要棟」をつくらないと発表したのである。玄海原発にもつくる考えはないと言っている。

 国会原発事故調の報告書で東電の清水正孝元社長が「あれがなかったらと思うとゾッとする」と言っているほど重要なものを、平然とつくらないと言い出しているのである。異常と言うしかない。

 その国会事故調は福島第一原発の電源が失われたのは津波の前、地震による可能性が高いとも報告しているのだ。

 『文春』によれば、伊方原発は、地震による最大級の揺れの想定「基準地震動」を570ガル(ガルは揺れの勢いを示す加速度の単位)から昨年、650ガルに引き上げたから安全だと言っているが、「熊本大地震は千五百八十ガルを記録しています。これは地表での数値で、原発は固い岩盤の上にあるので、その半分くらいをイメージすればいいとはいえ、六百五十ガルでは到底耐えられない」(岡村眞高知大特任教授)と言うのである。

 こうした大きな疑問に対して、規制委員会の田中俊一委員長は出てきて説明するべきである。さらに南海トラフ地震が起きる可能性については、東海大学海洋研究所長で地震予知が専門の長尾年恭教授が、今年4月1日に起きた紀伊半島沖の地震(M6.1)が、南海トラフの東端で、今回の熊本地震は西の端にあたると言っている。

 「後世の人は、(今回の熊本地震を=筆者注)南海トラフ地震の予兆だったと述べることになるのではないでしょうか」(長尾教授)

 ところで14日の地震が起きた後に、安倍首相は被災地を視察すると言い出した。16日の早朝6時出発という日程が組まれたそうだが、当日未明の本震が起きて出発3時間前に中止になった。

 もし行っていれば、警備や何やかやで1000人規模の人員が動くことになり、菅直人首相(当時)が福島第一原発事故直後、現地を視察したときと同様、大きな非難を浴びたであろう。

 『文春』は今回のテレビの震災報道を採点している。NHKは稚拙だったが、テレ朝『報道ステーション』の富川悠太アナの株は上昇したとしている。

 NHKで伝えたのは地方局のカメラマンだったそうだ。「家が傾いています」「道路が陥没しています」程度の、見ればわかることしか言えない現地ルポにイライラしたことは事実だ。富川アナは災害現場からの中継に慣れているから「水を得た魚」のようにこなしていた。

 今春から『NEWS23』のキャスターになった星浩氏の評価も低い。

 「星さんの取材は、赤ちゃんが救出された家屋の前に佇んでいただけ。行政への問題提起など、はっきりした切り口はなく、最後に活断層について地元の首長と話したことや原発立地の問題を、その映像はないまま『報告』して終わり」(立教大学・服部孝章名誉教授)で、精彩を欠いていたと手厳しい。

 『週刊新潮』(4/28号以下、『新潮』)は、地震直後からツイッターなどのSNSを使った悪質なデマ情報が飛び交ったと報じている。

 「地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだが」というものから「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」という看過できない悪質なものまであった。こうした書き込みをした卑劣な人間は、名前を明らかにして逮捕するべきである。

 気になる地震保険についても『新潮』は触れている。

 「現在、保険金額1000万円の場合、熊本県の保険料は木造で1万600円、鉄筋は6500円。これに対し、東京都は木造で3万2600円、鉄筋で2万200円となっている」

 金額は年額である。熊本県の14年度の地震保険の加入率は28.5%で全国平均とほぼ同じだという。だが、1000万円では満額もらえたとしても当座の暮らしに消えていくだけだろう。

 熊本地震が激甚災害に指定されれば、それなりの補償はあるのだろうが、安倍首相はなぜか指定するのを先延ばしにしてきた。

 安倍首相の地元・山口県で起きた死者・行方不明者4人、全壊家屋49棟を出した豪雨では、すぐに激甚災害に指定したのに。

 25日になってようやく政府は「熊本、大分両県で相次ぐ地震の激甚災害への指定を持ち回り閣議で決定した。被災自治体の災害復旧事業に対する国の補助率が上積みされ、自治体は少ない負担で事業を実施できる。安倍晋三首相は24日に麻生太郎副総理兼財務相に復旧・復興のための平成28年度補正予算案の編成を指示しており、被災者の生活再建に全力を挙げる」(産経新聞4月25日付)

 前日投開票された北海道5区の補選で辛うじて勝てたから、ようやく重い腰を上げたのであろうか。

 今後30年の間に起こると言われている南海トラフ地震のほかにも、日本中至るところ、いつ地震が起きても不思議はない「地震超大国」である。それに加えて再び原発事故が起きれば、日本には住めず難民化するしかない。早く全部の原発を止めて、地震予知研究にカネをつぎ込むべきである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 私が『週刊現代』の現場にいた頃、ゴールデンウイーク前の合併号では必ず「各界長者番付」というのをやっていた。新聞はたしか5月1日の朝刊で発表するのだが、そのリストを事前に手に入れ、上位にあがっている長者たちにインタビューするのだ。1980年の6位には松下幸之助・松下電器産業相談役、7位には上原昭二・大正製薬社長の名がある。
 作家は1位が司馬遼太郎、2位が五木寛之。歌手では1位が矢沢永吉、2位が谷村新司、3位が五木ひろし。犯罪抑止などのプライバシーの問題で廃止されたが、いつもこの時期になると思い出す。

第1位 「発表! ニッポンの『ウラ大金持ち』ランキングベスト100」(『週刊現代』5/7・14号)
第2位 「僕たちのヒーローはみんな在日だった」(『週刊現代』5/7・14号)
第3位 「『朝日新聞』部数水増し3割で『大新聞』の明日」(『週刊新潮』4/28号)

 第3位。先週は『ポスト』、今週は『新潮』が朝日新聞の押し紙問題を特集している。事の発端は、朝日新聞の販売店が、新聞の注文部数を減らしたいと朝日新聞側に申し入れたにもかかわらず、同社の営業社員は考え直せと突っぱねたので、たまりかねて公正取引委員会に申告したのだ。
 そこで公取委は、放置すれば違反につながると朝日新聞側にイエローカードを出したというのである。
 『新潮』によれば、公取委が動いたのは、2月15日に日本記者クラブで行なわれた公取委の杉本和行委員長の会見の席で、朝日新聞のエース記者大鹿靖明氏が、こう質問したことから始まったという。

 「(朝日の)販売店を調べに行った次第ですが──」「そこでお話を伺うと、相当、押し紙が横行している、と。みんな新聞社から配達されてビニールでくるまったまま、古紙回収業者が回収していく。私が見聞きしてた限りだと、25%から30%くらいが押し紙になっている。どこの販売店も何とかしてほしいけれども、新聞社がやってくれない、と」

 新聞業界最大のタブーとされる「押し紙問題」を朝日新聞の記者が“告発”したというのである。それを受けて公取委が動き、先のような処分が朝日新聞に下されたのである。
 前回報じた通り、もう一つ見逃せないのが、公取委が押し紙問題に積極的になった背景である。
 公取委は総理大臣直属の行政委員会なのだ。したがって、自分の気に入らないことを書く朝日新聞に圧力をかけるには、安倍首相にとって好都合なのである。

 「いまや新聞は安倍政権に完全に生殺与奪の権を握られたのである」(『ポスト』4/29号)

 あたかも「表現の自由」に関する国連特別報告者として初めて訪日したデービッド・ケイ氏(米国)が、日本での調査を終えて4月19日に外国特派員協会で会見したと朝日新聞が報じている。

 「『特定秘密保護法や、「中立性」「公平性」を求める政府の圧力がメディアの自己検閲を生み出している』と分析。『ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた』と述べた」(朝日新聞4月20日付)

 また同じ紙面で、国際NGO「国境なき記者団」が、2016年の「報道の自由度ランキング」を発表したが、日本は前年より順位が11下がって72位だったと報じている。10年には11位だったから、安倍首相になって61も下がったことになる。
 安倍首相批判報道を自主規制し、権力に擦り寄る大手メディアの堕落ぶりを指摘されているのに、何だか他人事のような報道の仕方である。困ったものだ。

 第2位。『現代』の「僕たちのヒーローはみんな在日だった」というタイトルを見て、30年ほど前に引き戻された気がした。
 朴一(パク・イル)大阪市立大学教授が同じタイトルの文庫を講談社+α文庫から出したことで、この企画を組んだようだ。
 私が『月刊現代』の編集部にいた頃、在日の芸能人やスポーツ選手、企業の社長たちを調べて、その人たちの名前を載せ話題になったことがあった。
 まだほとんどの人たちが日本名を名乗り、在日であることをカミングアウトする人は少なかった時代であった。出された人たちは迷惑したことだろう。
 ネタ元は韓国の新聞や雑誌だった。そこには日本で成功しているわが同胞たちという特集があり、日本名と韓国名を並記してあった。
 ずいぶん昔になるが伊集院静氏と初めて会ったとき、彼の名刺に韓国名が書かれていたのを見て、格好いい人だなと思った記憶がある。
 今の若い人は韓国名を名乗る人が多いようだし、何とも思わなくなったが、ここへ来るまではやはり長い時間がかかっているのだ。
 今回の朴さんも、名前を挙げているのは故人やよく知られた人が多い。やしきたかじん、力道山、松田優作、都はるみ、和田アキ子などなど。松坂慶子は私の中学校の後輩だが、彼女はその頃から、きれいな女の子がいると騒がれていた。
 NHK朝の連ドラ『マッサン』の玉山鉄二、野球選手の桧山進次郎選手は知らなかった。
 美空ひばりも在日ではないかという噂は以前からあった。ノンフィクション作家の本田靖春さんと美空を取材しているとき、彼女にそのことについて聞いてみようかという思いはあったが、本田さんの意向もあってやめたことがある。
 在日の人たちに芸能や音楽関係、スポーツ選手が多いのは、その頃は一般の企業に就職することがなかなかできなかったということも関係していると思う。今は少しはよくなってきているのだろうが、こうした“差別”は完全になくさなければいけない。

 第1位。『現代』の2016年版高額所得者番付を見ていると、昔のことを思い出す。今の時期になると高額所得者番付が新聞に載った。この番付は事前に配られるのだが、週刊誌はかなり前から取材しておかないと締め切りに間に合わない。
 知り合いの新聞記者から手に入れた番付のコピーを記者の人たちに渡して、企業の社長や土地成金、スポーツ選手や作家などを取材してコメント取りをやったものだった。
 あの頃は、長者番付の上位は親から相続した土地を売って大金を手に入れた人が多かった。上位の常連は大企業のオーナー経営者たちだった。
 その頃と比べると顔ぶれはずいぶん変わってきている。今回のランキングは総資産の多い順になっているようだ。
 第1位はキーエンス名誉会長の滝崎武光氏(70)。計測機器や電子顕微鏡が評価され、社員の平均年収が日本一高い会社としても知られる。総資産は3062.2億円。
 2位がスタートトゥデイという会社の前澤友作氏(40)。CD通販会社として設立され、アパレルのオンラインショッピングサイト「ZOZOTOWN」がヒットした。総資産は2493.6億円。
 3位はエービーシー・マート創業者の三木正浩氏(60)。安価なブーツを売り出して売上を伸ばした靴小売チェーン。総資産は2332.7億円。
 4位はホテルチェーンを擁するアパグループ代表の元谷外志雄氏(72)。総資産は2200億円。
 5位はコロプラ社長の馬場功淳氏(38)。スマホ向けのゲーム開発会社だそうだ。総資産は1751.4億円。
 多くがIT関連企業か、安売りで伸びてきた会社のようだ。こうした企業は10年後にどうなっているのだろう。来年からは、10年前のランキングと現在のを比べて見せてくれないだろうか。世の中の流れがわかっておもしろいと思うのだが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 話題になった「コップのフチ子」など、一風変わったカプセルトイを世に送り出すメーカー「奇譚(きたん)クラブ」。その商品の一つに、2014年に発売された「スマホのおふとん」がある。このジョークのようなグッズがいま、教育現場の注目を浴びているという。

 昨今は中高生がスマホに夢中になりすぎて、勉強や睡眠のための時間が削られているという。学校としては放っておけない事態だが、言うまでもなく帰宅後の生徒にまで強制力を発揮できない。そこで、岡山県立矢掛(やかげ)高校の校長が、とあるチラシを作成した。書かれている文句は「夜になったらスマホも、おふとんへ!!」。ともに掲載されている画像は、くだんの「スマホのおふとん」だ。このチラシをフェイスブックにアップしたところ、十二分なインパクトを与えて情報が拡散されていった。

 メーカー側では、「いつもいっしょにいるスマホにも愛情を持ってほしい」という意図があった「スマホのおふとん」だが、思わぬ取り上げられ方に驚いているという。ともあれ、今回のようなトピックが話題となる背景には、スマホ依存の問題を若い世代にアピールする難しさが垣間見える。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 4月1日から電力自由化がスタートした。

 これまで、家庭向け電気は地域ごとに決められた電力会社からしか購入できなかったが、電力小売りが全面的に自由化され、「どこの会社から買うか」を自由に選べるようになったのだ。

 自由化に合わせて、参入に名乗りをあげた新電力(小売電気事業者)は286社(4月18日時点)。ただし、家庭向けの販売を予定していない会社もあり、そのすべてが利用できるわけではない。

 家庭向け販売を始めた新電力のなかで、テレビや新聞の広告で見かけることが多いのが、ガス会社、通信会社、鉄道会社、商社など大資本の異業種からの参入だ。こちらは、自社のガスや通信などとセットで使うことで、大手電力会社で契約するよりも、電気料金が安くなるようなプランを組んでいるところが多い。電気の調達先は、天然ガスによる火力発電のほか、既存の大手電力から融通を受けるところもある。

 新電力のもうひとつのグループは、大きな資本に頼らない市民電力だ。こちらは、おもに太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電気を供給する。自社の自然エネルギー施設、提携しているメガソーラー施設などからの供給によって、再生可能エネルギーの割合を高めているところが多い。

 料金は、全体的に大資本の新電力のほうが安くなる傾向にあるが、契約する電力会社選びのポイントは料金ばかりではないようだ。

 東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故を経験した日本では、市民の間に「自分が使う電気がどのようにつくられたものか」を意識する人が増えている。そうした人のなかには、料金は高くても、原子力や化石燃料など、環境に負荷を与えるエネルギーでつくられた電気ではなく、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電された電気を使いたいと考える人もいる。そのため、今回の電力自由化では価格だけではなく、「どんなエネルギーで作られた電気なのか」という電源構成にも注目が集まっている。

 それぞれの発電所でつくられた電気は、エネルギー源が化石燃料だろうと太陽光だろうと、送電線のなかで混ざってしまうので、実際に家庭で使う電気は、どこでつくられたものかを特定することはできない。

 だが、再生可能エネルギーで発電している会社に自分のお金を支払えば、太陽光や風力の発電所にお金が回って、自然エネルギーの発電施設を増やすことを手助けできるかもしれない。電力会社を選ぶことは、この先の未来を選ぶことにもつながっているのだ。

 今のところ、実際に契約を切り替えた家庭は、全体の1%にも満たない。「電力自由化に興味はあるけど、どこにしようか迷っている」という人もいるだろう。そんな人は、料金だけではなく、電源構成にも注目をしてみてほしい。

 自分のお金は、どんな電力会社に支払うのか。電力会社を選べば、自分が望む社会をつくることもできるかもしれない。そんな視点で、電力会社選びをしてみてはどうだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「世界ゆるスポーツ協会」なる団体がある。公式ホームページに掲載されているキャッチは、「スポーツ弱者を、世界からなくす」。世の中にはスポーツが苦手な人も、からだが不自由な人も、高齢で激しい運動が難しい人もいる。しかし「ゆるスポーツ」ならば、誰もが気軽に楽しめるというふれこみだ。

 ユニークだが、案外とスポーツたりえているものが多い。専用のイモムシウェアに下半身を入れ、ほふく前進でプレーする「イモムシラグビー」、手がツルツルになるハンドソープをつけてプレーする「ハンドソープボール」、乱暴に扱うと泣き出すボールを用いる「ベビーバスケ」……。共通しているのは、参加者全員に等しく「ハンデ」を課すという発想だ。これによって、運動能力による劣等感の介在しない競技が実現することになる。

 協会代表・澤田智洋氏の本職は広告代理店のコピーライターで、世間に対して「仕掛ける」ことに巧みだ。どのゆるスポーツも、「動画よりも静止画で映える」というほど見た目のインパクトを重要視している。笑ってしまうほどのネーミングも秀逸だ。実際、ゆるスポーツの紹介には話題としてのバリューが見出されているようで、マスコミの取材が殺到している。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 政府は迎賓館(東京・元赤坂)を一般に通年公開する方針だ。安倍政権は「観光立国推進」を掲げ、日本を訪れる外国人観光客の目標を年間3000万人から大幅に増やす。そのため、迎賓館を通年公開し、有力な観光コンテンツにしたい考えだという。まずは2016年4月19日からこれまで年間10日間だった一般公開を150日間程度に広げる。

 迎賓館は1909年東宮御所(皇太子の居所)として建設された。かつて紀州徳川家の江戸中屋敷があったところだ。建物はフランスのベルサイユ宮殿を彷彿とさせる、日本最初の西洋風宮殿建築である。後に赤坂離宮や国立国会図書館として使われた。改修を行ない、1974年からは国賓などを迎える際の迎賓施設として使われている。国王や大統領、首相などが宿泊し、晩餐会、レセプションなどの接遇が行なわれている。2009年には国宝に指定された。

 菅義偉官房長官は迎賓館について「国民の皆さんに東京迎賓館を開放するとか、まだまだ考えられることはたくさんある」と記者会見で語った。

 国際会議や民間企業のイベントなどにも活用してもらおうという考えだ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 今年の4月1日に、カルビーから“新商品”として発表されたポテトチップスのこと。世界最笑のワライダケから摂れる成分「ワライガトマランゴ」が配合されており、「食べたら笑いが止まらなくなる?」らしい──

 カルビー側の弁だと、当初は架空の商品としてエイプリルフールのネタにすぎなかったのが、話題として盛り上がったこと、商品化の要望が多かったことから、本物の商品として発売する流れになったのだそう(※ただし「ワライガトマランゴ」は配合されていない)。

 4月18日から早くも全国のコンビニの棚に並ぶという迅速な動きをなぞるかぎり、エイプリルフールの“ウソ”はアドバルーン的な役割で、ある程度“本当の発売”を想定した上での凝ったプロモーション活動だったのでは……と、つい穿った見方もしてしまうが、少なくともこのデマによって筆者が迷惑を被ったわけでもなく、それなりの結果も出しているのだから、「企業努力の一環」として片付けてもよいクラスの“可愛い情報操作”だと言えよう。

 しかし、“企業レベルでつくエイプリルフールのウソ”は年々エスカレート、すなわち「巧妙で大がかり」となってきており、その「今年もやっちゃいました」的な悪ノリ感が少々鼻につき出し、またGoo○leのように“実害”を及ぼしはじめてきているのもまた事実。ネット上に氾濫する有象無象の情報の真贋を見極めることが至難となりつつある昨今、もはやエイプリルフールはホワイトデーに匹敵するくらい“要らない日”だと筆者個人は思うのだが、いかがだろう?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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