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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 241|253

『増訂 日本神話伝説の研究1、2』(高木俊雄著、大林太良編)

2011/10/06
アイコン画像    パワースポット訪問前の必読書? 神話研究の先覚者の名著から「神」について考える。

 よくよく考えてみると、「神無月」という言葉は面白い。ジャパンナレッジの「大辞泉」によれば、〈全国から神々が出雲大社に集まるため、諸国に神がいなくなる〉というのは俗説で、〈神を祭る月すなわち「神の月」の意とする説が有力〉なんだそうな。

 何が面白いって、神がぞろぞろ集まっている姿を想像していた日本人がいたわけで、出雲大社の縁結び信仰も、そこから来ていたりする。

 これに対する、大正時代の学者の見解がまた面白い。


 〈神集いのことは、すでに一般の国民信仰となりし今日においては、単に俗説の一説を以ってこれを排斥すべきにあらず。すでに諸神の集会を信ずる上は、この集会によりて、国家の命運の定まるごとく、男女の結合もまた、これによりて定まるものと信ずるは、決して偶然にあらず〉


 名著『日本神話伝説の研究』の一節だが、著者の高木敏雄は、神話・昔話・伝説研究の先覚者。柳田国男とともに雑誌「郷土研究」を刊行するなど、民俗学の立ち上げにも関わった人物でもある。調べれば調べるほど、こうした研究に対して氏の果たした役割は大きい。

 となると、氏が「天照大神」をどう捉えているかは興味深い。天照大神を祀る伊勢神宮はパワースポットの聖地として人気スポットになっているというだけでなく、2005年から20年に1度の式年遷宮が始まっている。2013年は正遷宮(神体の渡御)のクライマックスだ。

 高木によれば、天照大神は、機を織るし、大嘗の神事を行う。神ではなく、神を祀る側だと言うのだ。


 〈皇室の祖先としての天照大御神が英雄神である以上は、天照大御神を純粋の祭祀神と見ることはできぬ〉


 これは、私の中では納得する答えだった。

 『日本書紀』によれば、天照大神は宮中に祀られている。天照大神は皇室の祖先なのだから、単純に考えれば、これは先祖供養の一種だ。崇神天皇の代になって、「神と屋根を同じくするのはダメだ」といって、外に祀るのだが、逆の見方をすれば、それまでは「神」と思っていなかったってこと?

 パワースポットブームは、とりもなおさず、そこに何かを感じたいということである。突き詰めれば、日本人が何を大事にしてきたかということに繋がる。個人的にも発見の多い、高木敏雄の名著であった。

本を読む

『増訂 日本神話伝説の研究1、2』(高木俊雄著、大林太良編)
今週のカルテ
ジャンル歴史/評論
時代 ・ 舞台神話の時代の日本
読後に一言「神話」を知るということは、日本について考えるということでもある。
効用パワースポットを訪れる前に、読んでおきたい。
印象深い一節

名言
日本民族は混合民族である。種々複雑な分子から成って、統一を得て今日に至ったものである(2巻「郷土研究の本領」)
類書昭和初期の名著『日本神話の研究』(東洋文庫180)
生活共同体の中の神話を綴る『風土記』(東洋文庫145)
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