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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 264

『東アジア民族史1 正史東夷伝』(井上秀雄他訳注)

2021/06/03
アイコン画像    中国・漢の人たちの目で、
東アジア&日本を眺めてみたら?

 本書『東アジア民族史1 正史東夷伝』は、面白い試みの書である。中国正史から「東夷」と呼ばれた朝鮮・日本などに関する記述を抜粋していて、1巻目は『史記』から『隋書』まで、11の史書の記述を国・地域別に並べる。

「倭」と呼ばれる日本が、中国史に登場するのは『後漢書』からである。

 当時の中国はアジアの中心である。周辺国から朝貢されてようやく認識しているフシがある。『後漢書』にいう。


 〈(使者が来るなど)〔密接な関係が〕あったので、〔東夷〕諸国の風俗や風土については、大略(おおよそ)のことを記載することができる〉


 では古代中国は、周辺諸国の人々をどう見ていたのか。日本が登場する『後漢書』に絞って、そこに記載されている他国の様子を、中国に近い順にピックアップしてみよう。文化も風俗も違う人々と地域が見えてくる。


●夫餘(旧満州のあたり、ツングース系)
 〈大きく強くて勇敢である。また謹み深く、〔周囲の諸国に〕攻撃をしかけない〉
 〈みち行く人は、昼夜の別なく、歌〔をうたい詩を〕吟〔ずること〕を好み、その歌声がたえない〉

●高句麗(朝鮮半島北部)
 〈人の性格は、悪くてすばしこく、〔そのうえ〕気力がある。戦闘に習熟し、好んで〔隣国を〕攻奪する〉

●韓・馬韓(朝鮮半島南部)
 〈馬韓人は、耕作や養蚕の知識があり、綿布を織ることができる〉
 〈韓人は勇壮〔な性格〕がある〉

●倭国(日本)
 〈男子はみな黥面文身し(顔や身体に入墨し)、入墨の〔位置の〕左右や大小によって〔身分の〕上下を区別している〉
 〈〔男女ともに〕丹や朱を体に塗りたくっている〉
 〈女性たちはいたって貞淑で、決して嫉妬などしない。風俗は盗みや争いごとが少ない〉


 入墨は、日本(倭)に特徴的な習俗だったようである。人々は裸足、全身入墨で朱を塗りたくっていたというから、今とは全く異なる文化があったのだ。と考えると、古代日本は大急ぎで中国文化を取り入れ、中国化をはかったのだろう。良くも悪くも貪欲に吸収していった古代日本人が、この国を造ったのである。



本を読む

『東アジア民族史1 正史東夷伝』(井上秀雄他訳注)
今週のカルテ
ジャンル歴史
時代・舞台7世紀以前の東アジア(中国、日本、韓国、北朝鮮)
読後に一言『史記』から『隋書』までの時間の軸と、日本や朝鮮半島という地理的な軸、2つの軸で当時の東アジアが見えてきました。
効用有名な三国志魏書倭人伝(魏志倭人伝)の現代語訳も本書で読めます。
印象深い一節

名言
〔東夷諸民族は〕生まれつきが従順で、道理をもってすれば容易に治められるといい、君子の国や不死の国があるとさえ言われる。(「後漢書東夷伝」)
類書東洋史学者の名論考『邪馬臺国論考(全3巻)』(東洋文庫613ほか)
漢字から見る中国文化『漢字の世界(全2巻)』(東洋文庫281、286)
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