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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 453

『貞丈雑記 4』(伊勢貞丈著 島田勇雄校注)

2021/02/18
アイコン画像    ありがとうよりかたじけない?
有職故実の古典に学ぶ(4)

 先日、書架を整理していて驚いた。「事典」「辞典」と名がつく本がやたら多いのである。

 『消えた日本語辞典』(東京堂出版)、『関西ことば辞典』(ミネルヴァ書房)、『新版 日本史モノ事典』(平凡社)、『日本史「今日は何の日」事典』(吉川弘文館)……。まあここまではいい。何か学問の香りがする。

 ではこうなるとどうか。『いろごと辞典』(角川ソフィア文庫)、『方位読み解き事典』(柏書房)、『異名・ニックネーム辞典』(三省堂)、『日本現代怪異事典』(笠間書院)、『日本伝奇伝説大事典』(角川書店)、『事典 和菓子の世界』(岩波書店)……。途端にアヤシイ人物になる。「図鑑」も含めるともっとヘンになるのでやめておく。

 実は辞事典好きにとって、『貞丈雑記』は外せないことを今回、学んだ。これは有職故実の事典なのであった。

 辞典的な記述の中でも「おっ」と思ったのは、これだ。


 〈「忝(かたじけなし)」という詞(ことば)を、今時は貴人に対しては「ありがたし」と云う事、古(いにしえ)はなき事なり。古は、公方様(将軍)へも「忝」と申したるなり〉


 気になって「日本国語大辞典」(ジャパンナレッジ)で、「ありがたい」を調べてみる。すると「語誌」のところに、「かたじけない」との関連で次のようにあった。

 〈……類義語カタジケナシと関連があり、室町頃は感謝の意はカタジケナイが用いられ、元祿以降アリガタイが優勢になったとされている〉

 これからは、事あるごとに「かたじけない」と言おう。


 「おっ」第二弾はこれ。


 〈料理と云う詞、今は食物を調えこしらゆる事を云う。むかしは食物ばかりに限らず、何にてもとりはからう事を「料理する」と云うなり。「料」の字は「はからう」と訓むなり〉


 これもジャパンナレッジで調べてみる。

〈料理ということばは平安朝の初期からある。物や物事を、はかりおさめる、うまく処理する意に用いていたが、まもなく食べ物専用のものになった〉(「ニッポニカ」)

 食べ物を調理する「料理」が先にあって、そこから転用していったと思っていたが、逆だった。『貞丈雑記』の正確さ、オソルベシである。

 こうやってツマミ読みするだけで、どこまでも好奇心の線は引かれていく。辞書を読む醍醐味である。



本を読む

『貞丈雑記 4』(伊勢貞丈著 島田勇雄校注)
今週のカルテ
ジャンル教育/政経
時代・舞台江戸/1784年頃完成、1843年刊行
読後に一言『大予言事典』(学研)や『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)も捨てがたいです(笑)
効用最終4巻目は、お金(鳥目類)や神仏など15項目を収録します。
印象深い一節

名言
「あやまる」と云うは「あやまちある」を云うなり。今時は、我が悪事を悔みて赦免を請うを、あやまると云うは、非なり。(巻之十五「言語の部」)
類書日本初の図入り百科事典『和漢三才図会(全18巻)』(東洋文庫447ほか)
江戸の本草事典『本朝食鑑(全5巻)』(東洋文庫296ほか)
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