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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 628

『完訳カーマ・スートラ』(ヴァーツヤーヤナ作、岩本裕訳著、中野美代子解説)

2011/04/21
アイコン画像    1500年以上前からインドで愛読されていた、
恋愛のバイブル本。これで婚活も万事OK?!

 そんなことが気になる人はそれほど多くないと思うけれど、私は「●活」という言葉が非常に気になる。テレビや雑誌誌面からは、就活、婚活、離活、住活、朝活……とカツカツ、カツカツ、「●活」の単語を見聞きしない日はない。気になってジャパンナレッジで調べてみると、最初に登場したのは「就活」らしい。


 〈学生ことば。彼らが大学3年生になると始める「就職活動」を略したもの〉

(「亀井肇の新語探検」「シューカツ」の項、2004年02月02日配信)


 で、続いて「婚活」。


 〈婚活は2007年11月、雑誌「AERA」での山田昌弘(家族社会学者)が初出〉

(「情報・知識imidas」「婚活/離活」の項)


 ポイントは、この「活」には、〈主体的で積極的な自助努力〉(「情報・知識imidas」「婚活」の項)が必要だということだ。自分から攻めて攻めて攻めまくる。となると、「活」には「勝つ」という思いも重ねあわされているのだろう。だから失敗は「負け」となる。「負け犬」が流行語大賞のトップ10に選ばれたのは2004年だから、見事に符合する。


 では、例えば「婚活」は、今に始まった話なのか?


 というわけで、手に取ったのが『カーマ・スートラ』である。一言で片付けるなら、〈インド古代の性典〉(ジャパンナレッジ「現代用語の基礎知識」)。確かに、性技は微に入り細に入り詳しいですよ。でもこの4~5世紀のインド古典の肝は、伴侶をゲットする方法を説くところにあると思うのだ。

 試しに、章タイトルを書き出してみよう。「求婚に関する規定」、「結婚関係に関する論議」、「孤独な男が配偶者を得る方法」、「望ましい夫を得る方法」……。ね? 『カーマ・スートラ』はむしろ、男女関係構築のためのマニュアル本なのだ。少なくとも婚活に挑む前に、私は本書に目を通すことを勧める。

 さわりを紹介しよう。本書が説く、「女に好かれる男」。


 〈女の言うことをよく聴く者〉(女はただ話したいのだ)

 〈座談に秀でた者〉(合コン上手?)

 〈女の親しい女友達と密かに連絡をした人〉(外堀から)

 〈女の弱点を知る者〉(勝負事ゆえに)

 〈女に大胆な人〉(押しの一手ですな)

 〈高価な装飾品を身につけ豪奢な生活をする人〉(ようはお金持ちということで……)


 うむ……、私の場合、すでに妻子アリ。本書をもう少し早く読んでいれば違った結果になったかも?

本を読む

『完訳カーマ・スートラ』(ヴァーツヤーヤナ作、岩本裕訳著、中野美代子解説)
今週のカルテ
ジャンル風俗/評論
時代 ・ 舞台4~5世紀のインド
読後に一言私には到底かなわない、奥深~い世界でした。
効用何事も分類・整理し、深く考察すれば、光明が見えてくるかも。
印象深い一節

名言
接吻、爪痕及び歯痕をつけることに関しては、これらは情慾の昂まった際に用いられるものであるから、前後の順序はない。
類書インドの政策論『ニーティサーラ』(東洋文庫553)
インドでの行動規範『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(東洋文庫698)
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