週刊東洋文庫トップへのリンク 週刊東洋文庫トップへのリンク

1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 268|284

『小梅日記2,3 幕末・明治を紀州に生きる』(川合小梅著 志賀裕春、村田静子校訂)

2019/02/21
アイコン画像    不安な世の中を生き抜く術とは?
幕末の争乱を生きた女性にまなぶ

 〈1867年(慶応3)8月から翌年4月ころにかけ,伊勢神宮の神符等が降下したということを契機に,畿内・東海地区を中心に〉、〈狂乱的な民衆運動〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)がおこります。ご存じ、「ええじゃないか」です。〈民衆の意識としては、この御札の降下に世直しをみていた〉(同「ニッポニカ」)のだそうですが、実際はどんな様子だったのでしょうか。


 〈女は男となり、男は女となり、色々趣向の風俗、驚眼にて、音曲、三味、太皷、笛、つゞみ、かね、鈴、思ひ思ひにはやし立、ヨイジャナイカヨイジャナイカヨイジャナイカと申て踊り、知らぬ人でも、侍でも、道にて出逢候人の手を取り、踊らんか踊らんかと申、踊り歩行〉


 幕末から明治の貴重な記録『小梅日記』に描かれた「ええじゃないか」です。著者の川合小梅は紀州藩(和歌山県)の在なので、畿内・東海地区を中心に起きた「ええじゃないか」は紀州も例外ではなかったのです。

 いろいろな理由はあるでしょうが、“戦争”もまた、ひとつの要因ではないかと考えます。不安が、人々を何かに駆り立てたのではないか――。

 事実、万延元年(1860)あたりを境に、倒幕派藩士による外国要人殺害が相次ぎます。まさにテロです。そして桜田門外の変、生麦事件、薩英戦争、蛤御門の変、第1次長州征討……と戦に次ぐ戦。「ええじゃないか」が起こった翌年、戊辰戦争に突入します。幕末は戦乱の時代ともいえるのです。明治になっても戦争は終わりません。明治10年(1877)、西南戦争が勃発するのですから。

 ではそんな中、庶民はどう生きたのでしょうか。


 〈薩摩とのたゝたかひ(西南戦争)にて米段々直上るとの沙た〉

 戦が、庶民の生活を圧迫していった様が見て取れます。


 〈歌に、かてば官軍、まくればぞく(賊)徒、友にゆこうよどこ迄もとうたひながらたゝかふよし也〉


 兵士たちの悲しみが伝わってきます。

 さてこんな荒れた時代を、小梅はどう乗り切ったのでしょうか。


 〈世の末に、乱世に成時は、いろいろのあやしみあれども、何ぶんにもつゝしみ候(そうろう)より仕方なし〉


 なるほど、慎む。「新選漢和辞典 Web版」(ジャパンナレッジ)によると、「慎」には、〈心を引きしめる〉という意味があります。何ぶんにも慎む=心を引き締める――金言です。



本を読む

『小梅日記2,3 幕末・明治を紀州に生きる』(川合小梅著 志賀裕春、村田静子校訂)
今週のカルテ
ジャンル日記/記録
時代・舞台幕末~明治初頭の日本
読後に一言権力に対して慎ましやかである必要はありませんが、自分に対して慎ましくありたいと思います。
効用歴史の教科書からこぼれ落ちてしまったものが見えてきます。
印象深い一節

名言
白妙の雪か花かと詠(なが)むれば
豊年しるき早咲きの梅
類書幕末に誕生した天理教の聖典『みかぐらうた・おふでさき』(東洋文庫300)
明治庶民の生活史『明治東京逸聞史1、2』(東洋文庫135、142)
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る