週刊東洋文庫トップへのリンク 週刊東洋文庫トップへのリンク

1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 336

『中国民衆叛乱史1 秦~唐』(谷川道雄・森正夫編)

2017/11/30
アイコン画像    鴻鵠の志をあなたは持てるか
中国の民衆が立ち上がるわけ(1)

 〈平成30年(2018年)は、明治元年(1868年)から起算して満150年の年に当たります。この「明治150年」をきっかけとして、明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは、大変重要なことです〉(政府広報オンライン「明治150年」)

 こういう文章を読むと、私はゾッとします。明治の精神とやらが、「国家神道」を生み出したのですから。

 ご存じのように明治維新は、支配層(武士)の権力争いです。民衆は……といえば、戦火に巻き込まれない限り、他人事でした。戦国時代もしかり。日本における権力ゲームに、民衆はほとんど関わっていないのです。では、他の国はどうなのでしょうか?

 というわけで、『中国民衆叛乱史1 秦~唐』です。中国では常に、叛乱によって時の政権が転覆していきました。著者はこの叛乱を、〈民衆の主体的運動〉として捉えます。〈国家を再生させてゆく〉力であった、と。

 中国初の民衆の叛乱は、秦の時代に起こりました。


 〈燕雀(えんじゃく)いずくんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや〉


 有名な故事成語ですが、これを口にしたのが、最初の農民叛乱を主導した陳勝です。ある時、辺境警備のために徴発され、現地に向かっていたのですが、大雨で足止めをくらってしまう。期限に間に合わなければ斬罪です。そこで陳勝と仲間の呉広は相談します。


 〈いま逃げても殺され、叛乱を起こしても助からないだろう。どうせ死ぬのなら、国を取るために命をかける方がよいではないか〉


 飛躍していますが、日本人にはない発想です。

 で、陳勝と呉広は、同じく徴発された連中をそそのかすのですが、そこで、あの有名なひと言が放たれます。


 〈王侯将相寧(おうごうしょうそういずく)んぞ種(しゅ)あらん乎(や)〉(ジャパンナレッジ『ニッポニカ』、「陳勝・呉広の乱」の項)


 本書ではこう訳します。


 〈王侯将相とて腕しだいだ、決まった家柄などあるものか〉


 ようは、国を治めるのに身分など関係ないと鼓舞したのです(「二世」をありがたがる日本は……)。さて陳勝・呉広は快進撃を続け、〈「張楚」国を建て〉ます。〈6か月の短命の反乱政権〉でしたが、〈のちに項羽、劉邦の軍が秦を滅ぼすことになる〉(同前)のです。ひとりの農民――陳勝の行動が、歴史を大きく変えたのです。



本を読む

『中国民衆叛乱史1 秦~唐』(谷川道雄・森正夫編)
今週のカルテ
ジャンル歴史
時代 ・ 舞台中国/秦~唐
読後に一言史書から叛乱部分を抜き出しており、編集の妙が光ります。読み物としても面白いので、数回に分けて紹介します。
効用それぞれの叛乱には丁寧な解説が添えられており、その歴史的背景や評価が、よくわかります。
印象深い一節

名言
お前は智略縦横、わが家のことを十分やっていく才能がある。だが余りにも残虐で、人びとを憐むことが一つもない。〔こんな風では〕ゆくゆくはきっとわが国家を覆すことになるぞ(「華北の群雄勢力」)
類書中国思想の成り立ち『四書五経』(東洋文庫44)
六朝時代の短編小説集『幽明録・遊仙窟他』(東洋文庫43)
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る