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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 605|610

『五雑組 1、2』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)

2017/01/12
アイコン画像    9はなぜ中国で縁起のいい数字なの?
百科全書的エッセイを読む (1)

 〈数は一に始まり九に終る〉


 当たり前のことしか言っていませんが、こう断言されるとなんだかすごいことを言っているような気がしません? すごいんです。この文は、9は〈陽数〉である、と続き、世には9を冠した言葉がたくさんあるが、〈必ずしも本当に九つあるわけではない。物の数の多いのをいうのに、万というようなものである〉と結論づけます。

 これ、『五雑組』の中で見つけた言葉ですが、この本は、〈明代末期の謝肇淛(しやちようせつ)(1567-1624)の随筆集〉です。〈五雑組とは五色の糸でよった組みひもの意〉で、〈天・地・人・物・事の5部〉に分けられ、〈古今の文献や実地の見聞などに基づいた豊富な話題〉を取り上げています。日本でも〈江戸時代には広く愛読され〉ていたそうです(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)。ま、百科全書的エッセイと申しましょうか、ウンチクの宝庫といっていいでしょう。

 さて本書が提示した9の話。興味深いのでもっと突っ込んで調べてみました。


 〈9は3の3倍で,天界,地界,冥界の三つの世界を支配する完全な力を意味する。ヘブライの伝統では真実を意味し,中世の儀礼では体・知性・精神の一致として優越性を表した。日本では〈苦〉に通じるので縁起の悪い数とされているが,他の東洋諸国では一般に幸運の数として知られている〉(同、「数」の項)


 もっというと、中国では奇数=陽数、偶数=陰数という考え方があります。ところが日本で聖数といえば8。大八洲、八百万神……と「物の数の多い」ものを8で表します。仏教では、数が多いことを「八万四千」と表したりしますから、あるいは仏教の影響なのでしょうか?

 『五雑組 1』にはさらに不思議な数の話が紹介されていました。宋代の田特秀という男、誕生日は5月5日。幼名を〈五児〉といい、試験はすべて5番目の成績。で……


 〈五十五歳で、五月五日に亡くなった〉


 ここまで来ると、不思議を通り越しますね。

 しかしこの著者、謝肇淛は、科学的なスタンスを崩しません。オカルトに流れない。それどころか、吉日を気にする風潮を否定します。


 〈吉凶禍福というのは、どこまでいっても逃れることができない〉


 この諦観。いいなぁ。



本を読む

『五雑組 1、2』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)
今週のカルテ
ジャンル随筆/科学
成立した時代17世紀前半の中国・明
読後に一言意外と……といったら失礼ですが、非常に面白い本でした。なので、今回は「天」と「地」の1、2巻。次回からは「人」(3、4巻)、「物」(5、6巻)、「事」(7、8巻)と計4回に分けてお送りします。
効用謝肇淛はこうも言っています。〈災に遇っていながら、それがかえって福になることもあり、瑞祥に遇っていながら、凶事に出会うこともある〉
印象深い一節

名言
死あって然るのちに生がある。(『五雑組 2』)
類書明代の短編小説集『今古奇観(全5巻)』(東洋文庫34ほか)
聖数〝5〟『漢書五行志』(東洋文庫460)
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