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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 292

『神国日本 解明への一試論』(ラフカディオ・ハーン著、柏倉俊三訳注)

2011/01/20
アイコン画像    日本とは何か? 日本を最も理解する外国人、小泉八雲が、この不思議な国を解剖する。

 前々から不思議に思っているのだが、ニッポンの政治家はなぜか、何かと「明治維新」を持ち出してくる。例えば、菅直人首相。


〈今回の政権交代の目的は、明治維新のときと同じ、まさに旧体制の権力構造を徹底的に壊すことなのである。そうしなければ新しいシステムはつくれない〉(「政治構造の大転換――今回の政権交代は維新以来の革命である」/ジャパンナレッジ「日本の論点(2010年版)」)


 それどころか、明治維新を第一、敗戦後を第二、そして現在を「第三の開国」とまで言い出した。

 あなた方、本当に今という時代を、国家存亡の最大の危機と思っていますか? これが私の率直な感想。だって1868年は国が二分され、1945年は焼け野原となった。2011年、いったい何があるというのでしょう? 維新や開国になぞらえるような、国家的危機ならば、それこそこの国は一大事なのではないか?

 では明治維新をよく知る人物――明治の日本に生き、この国を愛した小泉八雲ことラフカディオ・ハーンに登場いただこう。ハーンは、評論『神国日本』の中で、日本には不思議な美しさが満ちているといったが、その根源にあるのは、〈庶民の日常生活面に反映している道徳的な美しさ〉だとした(あるいは、伊達直人運動は、現代日本に残された道徳的な美しさか?)。

 その上で氏は、明治維新をこう看破する。維新は〈少数の卓越した人物の事業〉ではなく、〈国民的民族的な本能のはたらき〉によってなされた、と。


 〈この国家存亡の最大の危機に際会すると、民族本能は躊躇なしにかつて最も頼りにすることのできた道徳的経験――つまり、絶対服従の宗教である上代の祭祀に具現されている経験に、立ちかえったのであった。神道の伝統を頼りとして、国民は、古の神々の子孫であるその支配者の周囲に集まり、鬱勃たる信仰の熱意に燃えながら、この支配者の意志を待っていたのである〉


 危機に際し、日本人は、つまり先祖返りをした。自らの意志で、それまで忘れていた神道と帝(みかど)にすがったのである。では第二の開国ではどうだったか? GHQという天の声にまたしてもすがったのではなかったか。

 そこまで認識した上で、「明治維新のときと同じ」というならばいい。しかしそうでなければ、その使い方はまるで、戦前の「神風」と同じではないか。

本を読む

『神国日本 解明への一試論』(ラフカディオ・ハーン著、柏倉俊三訳注)
今週のカルテ
ジャンル評論/宗教
時代 ・ 舞台明治時代の日本
読後に一言日本人とは何か。何をすべきか。
効用賢者の視点は、冷静な立ち位置を保たせてくれます。
印象深い一節

名言
今後何千年かさきに、旧日本の理想によって予表されたような道徳的状態が、決して幻想の影ではなく成就しうるように、人間の道が進歩してゆくかも知れないのである。
類書初版1890年の英国人による日本文化事典『日本事物誌(全2巻)』(東洋文庫131、147)
明治政府を賛美する風潮に異を唱えた福地源一郎(桜痴)の『幕府衰亡論』(東洋文庫84)
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