週刊東洋文庫トップへのリンク 週刊東洋文庫トップへのリンク

1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 360|364

『甲子夜話続篇1、2』(松浦静山著、中村幸彦・中野三敏校訂)

2016/08/11
アイコン画像    暑さも勝負も「笑い」で乗り切ろう
「甲子夜話続篇」を楽しむ(1)

 世間は、リオ五輪一色ですが、あれ、不思議なことに活躍する選手は皆、笑っています。競技前に悲愴な顔をしていた人たちは、一様に結果が思わしくないようです。実際、笑いの効用は哲学的にも言われています。

 〈不安や恐怖に駆られていたり、激しく憤慨していたり、深い哀れみや同情の思いにつかれている場合には笑いは生じない〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)

 〈笑いには笑い手に平静な心が必要〉ともありますから、笑顔が普段の力を発揮させるといえるでしょう。

 実際私も、落ちこんだ時は漫画に逃げ込みます。そこで〈平静な心〉を取り戻しているのですが、妻の目には「幼稚な男」としか映らないようです……。

 そこで『甲子夜話続篇』です。この2巻目には、実はたくさんの小咄が収録されているのです。著者の松浦静山は、小咄は短いものがいいとされていたのに今は、〈冗長〉だと憤ります。で、〈憶記する所を挙ぐ〉と。

 私がクスッとした小咄を紹介します。


 ある時将軍が、浅草に出掛けた。だが賑わっていない。家臣に理由を聞くと、将軍様が御成なので、物も片づけ、皆静かにかしこまっている。


 〈然らばいつぞ御成にて無き日に出づべし〉


 何代目の将軍か気になります。


 ある無精な男。タバコ盆から鉢植えまで、何でも「持ってこい!」と命じる。ある時、家の外が騒がしい。聞くと大名行列だという。それを聞いた男。


 〈こゝに持来れ〉


 あるところに幽霊屋敷があった。周囲が止めるのも聞かず、ある男がその屋敷に出かける。はたして幽霊が現れるが、たいそうな美人。近づいても拒まない。男はムラムラとし、手を引いて隣の部屋に。


 〈裾を褰(まく)り奸せんとするに、腰下(こしからしも)なし〉


 エロと笑いは相性がいいようで……。


 仲睦まじい夫婦がいた。しかし夫は妻に先立たれてしまう。夫は後妻を迎え、〈合歓を極めたる折ふし〉(つまりそういうことですな)、仏壇が震え、亡妻の位牌が落ちてきた。泡を食ったのは夫。これは亡妻の怒りだと、剃刀で自分の元どり(まげ)を切ってしまった。そこへ隣人。


 〈ただ今は強ひ地震でござる〉


 はからずも、4つすべて馬鹿な男のエピソード。もともと男が馬鹿なのだと言われても、私は否定できません。同じ馬鹿なら、呵呵大笑といきたいものですね。



本を読む

『甲子夜話続篇1、2』(松浦静山著、中村幸彦・中野三敏校訂)
今週のカルテ
ジャンル随筆/風俗
書かれた時代1800年代前半の江戸
読後に一言『甲子夜話』に続く『甲子夜話続篇』シリーズ、全4回でお届けします。
効用「ヲランウータン」の説明と絵(『甲子夜話続篇 1』4)など、「続篇」も松浦静山の好奇心全開です。
印象深い一節

名言
隣人から金槌を貸してもらえなかった男が怒ってひと言。〈慳(しわ)き人(ケチ)かな。今は為(せ)ん方なし。我が物をつかへ〉(『甲子夜話続篇 2』17)
類書江戸の笑い『江戸小咄集1、2』(東洋文庫192、196)
江戸初期の笑い『昨日は今日の物語』(東洋文庫102)
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る