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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 244

『義和団民話集 中国の口承文芸1』(牧田英二・加藤千代編訳)

2015/10/01
アイコン画像    “強い怒り”が国を変える
「義和団事件」の口承物語

 2015年夏。国会議事堂を囲んだデモの声は、来たる革命の叫びか、それとも時代のあだ花に終わるのか。

 いずれにせよ、この国には、本当の意味での「革命」が起きたことがないという事実に気づき、私は愕然としました。大化の改新も、足利尊氏も、明治維新も、いわば支配階級による政権交代です。名もなき人々が立ち上がり、この国をひっくり返したことはないのです。それは幸せなことでしょうか? それとも「諦め」が当たり前になっているのでしょうか。

 隣国・中国は、いうなれば「革命」の歴史です。中でも義和団の乱(義和団事件)は、〈日清戦争後、義和団が生活に苦しむ農民を集めて起こした排外運動〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)であり、成功しなかったとはいえ、被支配層による革命の試みでした。

 本書『義和団民話集』は、戦後に編まれた口承文学集です。数十年前の出来事を、物語として口伝えていたものですが、その主体は義和団にシンパシーを持っている、あるいは実際に参加した人々です。彼らが、被支配層による革命をどう捉えていたか、それがわかるのです。

 彼らはこの時期――1900年前後の自分の国(清朝)をどう見ていたか。


 〈きょうびのお上ときたら、洋人の味方をしやがって、あちらの言うことなら、なんでもハイハイと聞くしまつさ〉


 自分たちではなく、欧米の言うことをきいている、という不満があったんですね。対米追従ならぬ、対西洋追従というわけです。

 もっとも興味深かったのは、「子ウシ、村びとの難を救う」。まるでグリム童話、といった趣です。

 ある農村の4人家族。西洋人とその手先が農村に攻め込んできたことで、生活は一変します。父は苦役に送られ、母は蹴り殺され、娘は蹂躙されての自殺。残った10歳ぐらいの息子は、ひとり嘆き悲しみます。すると、西洋人に連れ去られ食べられてしまった牛が夢枕に立ち、自分の骨と皮を掘り出せという。掘り出した骨を焼くと銀塊になり、皮は金塊になるという、まさにお伽噺。銀塊も金塊も、西洋人に奪われてしまうのですが、最後は金塊が爆発し……というまさかのオチ。

 「願望」です。しかしここには「踏みつけられてなるものか」という強い怒りがあります。怒りを忘れないことで、かの国は革命を起こし続けてきたのです。



本を読む

『義和団民話集 中国の口承文芸1』(牧田英二・加藤千代編訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
刊行年 ・ 舞台1960年前後・中国
読後に一言忘れる。諦める。こうした姿勢は生きる知恵かもしれませんが、そうしてはいけないことも、中にはあるのでしょう。
効用決して「事実」が描かれているわけではありませんが、ここにある心情は「真実」なのでしょう。
印象深い一節

名言
洋人だのみの洋教かぶれ/恥を恥とも思わない/それでもおまえは中国人か/洋人の子になつちまえ
類書秦~清の民衆の歴史『中国民衆叛乱史(全4巻)』(東洋文庫336ほか)
義和団に攻められた側の記録『北京籠城・北京籠城日記』(東洋文庫53)
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