1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
なでしこジャパン、祝・準V 江戸時代から女性は輝いていた! |
なでしこ、やってくれました。準V、立派です!(川平慈英風に)。とはいえ個人的に憂鬱なのは、これが「女性が輝く社会」の象徴とされてしまうこと。
先日(といっても随分前ですが)、〈最近安倍さんはさかんに女性が輝く社会を! とおっしゃっておられますが(中略)、女性は輝かないと(つまり子どもを産んで、かつ生産的な仕事をバリバリする女性にならないと)いけないんでしょうか〉という質問に対し、村上春樹さんがネットで、〈僕のまわりの「輝いている」女性たちはみんな、安倍さんに向かって「おまえなんかに、いちいち輝けと言われたくないよ」と言ってます。たしかに余計なお世話ですよね〉と回答し、話題になりました(このやりとりが掲載されたサイト『村上さんのところ』の書籍版は7月下旬発売予定)。
同感です。本当に余計なお世話です。なでしこだって、女性だから輝いたわけではありません。日本人だから結果を残したのでもありません。このフレーズに違和感が拭えないのは、「男性より、女性は輝いていない」ということが前提になっているからです。果たしてそうでしょうか?
江戸後期を生きた女性に、只野真葛(1763―1825)という才人がいます。父は、『赤蝦夷風説考』の工藤平助。早くから学問に目覚めますが、10年間の奥女中奉公後に結婚し失敗。35歳で再婚するも、50歳で夫と死別。その2度目の結婚の最中、49歳の時に書き始めたのが、本書『むかしばなし』です。幸福とは言い難いですし、今の世ですと、経済活動をしていない主婦ですから、「輝いている女性」の範疇には入れてもらえないでしょうが、的確な表現、ものを捉える目……非常に輝きを放っています。前半の思い出話も味わい深いのですが、個人的には、狐使いや化け猫がわらわら登場する後半部分に惹かれました。
その中のひとつ。
〈あるねじけじじ、店先に胡座(あぐら)かきていしが、金玉あらわに見えしを、道行く人店の物に直(ね)を付ける序(ついで)に、その金玉も売り物か、とおどけて聞きしを、左様でござると答えし故、いくらでと問えば、三両でござります〉
男はガキですからねぇ。持っていくんです、次の日、三両を。〈ねじけじじ〉もガキですから、〈死人の金玉〉を用意して待っている。で、「これは昨日の商品と違う」「あれは看板だから売れぬ」と大喧嘩になり、裁判沙汰に。どうです? 女性は言われなくても輝いていたのです。男のほうが輝いている、なんて私は恥ずかしくて口にできません。
ジャンル | 随筆/紀行 |
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時代 ・ 舞台 | 18世紀後半の江戸 |
読後に一言 | ひとつの方向に「輝け!」というのが無理筋だと思うのです。いろいろな「輝き方」を許容する社会でありたいものです。 |
効用 | 収録作の旅行記「磯づたい」も、観察眼が光る名紀行です。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 思い出づるまにまに書きつらねて見せ参らせんとは思いしかど、とかくまぎれてありしが、去冬の頃より思い立ちて片端を物に書き付けおきしを、この春書きあつめて奉るなり。 |
類書 | 江戸を生きた女性のエッセイ『名ごりの夢』(東洋文庫9) 明治・大正・昭和の女性の生き方『おんな二代の記』(東洋文庫203) |
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(2024年5月時点)