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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 671|672

『ガーンディー自叙伝(全2巻)』(M.K.ガーンディー著、田中敏雄訳注)

2013/11/21
アイコン画像    インドの指導者ガンジーの出発点は、
本人も持て余す“性欲”だった!?

 博士も大臣も社長も不祥事を起こす世の中にあっては、「立派な人になれ!」と我が子に諭すのは難しい。「オレを見習え!」というワケにもいかないし……。困りに困って、100人以上の伝記を1冊にまとめたお手軽なムックを小学生の息子に買い与えた。まあ、安易ですな。

 で、パラパラと捲っていたら、ガンジーに行き当たった。非暴力・不服従でインドの独立を勝ち取った指導者だ。フムフムと息子の本を読みながら、東洋文庫に自伝が入っていることを思い出した。『ガーンディー自叙伝』だ。爪の垢でも煎じて飲もうと読んでみたら……いやぁ、その明け透けさ(?)と内容に驚きましたよ。

 誤解を恐れずに記すなら、ガンジーは何と“性欲”に悩んでいたというのです。13歳で結婚させられたガンジーは、本人いわく、すぐに性欲に囚われる。囚われるあまり、妻の行動を規制し、監視し……という嫉妬男に。敬愛する父親の臨終シーンは衝撃的だ。親孝行のガンジーは父の脚を毎晩揉んであげていた。叔父に「代わろう」と言われた16歳のガンジーはどうしたか。


 〈私は喜び、寝室へと直行しました。気の毒な妻は熟睡していました。しかし、どうして寝かせておけましょうか? 起こしました〉


 性欲に囚われたガンジーが事に及んでいると、臨終の知らせ。〈性欲にかられて盲目になっていなかったら……〉と後悔するも後の祭り。その後も、文字をあまり知らない妻に自ら教育しようとするものの、〈性欲がそうはさせません〉という始末。36歳の時に、〈夫婦関係を断つ〉決意をするまでは、〈どのようなときにも性欲に支配されるようになっていた〉というから穏やかじゃない。

 ガンジーといえば、断食が有名だが、これすら、〈性欲を生み出す食事の制限〉という意図も込められていた。性欲が人一倍強かったがゆえに、〈自己抑制〉の必要性を感じ、それが断食へと繋がったというわけだ。拡大解釈すれば、インドの歴史はガンジーの性欲で動いた!?

 いわばガンジーは、おのれの性欲を通して、自分の弱さに気づいたのだ。そう、利己的な自分に。


 〈利害はすべての人を盲目にしてしまう〉


 ガンジーの前半生を見る限り、立派な人なんて口が裂けても言えない。だが彼は自分を律し、とうとう真理にたどり着いた。そして彼の思想は人々を動かした。

 思いが強ければ、たとえ何歳でも自分を変えることができるのだ。

本を読む

『ガーンディー自叙伝(全2巻)』(M.K.ガーンディー著、田中敏雄訳注)
今週のカルテ
ジャンル伝記
時代 ・ 舞台19世紀後半から20世紀前半のインド
読後に一言そういえば宮澤賢治も自分の性欲を持て余して、自律へと向かったのでした。
効用自分を飾らない――正直な自伝の記述に、ガンジーのスタンスが見えてきます。
印象深い一節

名言
真理の神(サッティヤナーラーヤーン)に対面するためには、すべての生き物を自分のように愛することが最も必要です(「供犠の終わり」)
類書カースト制を解き明かす『カーストの民 ヒンドゥーの習俗と儀礼』(東洋文庫483)
中世インドの恋の詩『ミール狂恋詩集』(東洋文庫602)
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