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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 549

『教坊記・北里志』(崔令欽・孫棨著、斎藤茂訳注)

2013/11/14
アイコン画像    唐の都・長安の夜の華やかさを伝える
妓女&色街の詳細なレポート

 〈急調子の笛の音は、止んではまた奏でられ、/さかんな絃の音は、低くゆるんでは、また高くピンと張る〉


 〈風は暖かく、春は暮れようとし、/星はめぐって、夜はなお尽きない〉


 『教坊記・北里志』に収録されている、唐の都・長安の妓館を回顧した白居易の詩の一節である。街中から聞こえてくる音楽の調べに、夜通し続く宴会。長安の華やかさが何となくイメージできるのではないだろうか。今の日本ならば新宿歌舞伎町か、はたまた江戸時代の吉原か。

 本書は、唐代の妓女をテーマにした編集で、そのガイドブックともいえる「教坊記」と「北里志」、おまけに白居易の詩一編という構成になっている(これだけで、本書の特殊性がわかりますよね?)

 中でも「北里志」の妓女評が面白い(「北里」というのは長安の代表的な色街だ)。


天水仙哥……〈その容姿はごく平凡〉

鄭挙挙……〈太って大柄で、容貌にすぐれない〉

牙娘……〈軽率な性格〉

顔令賓……〈立居振舞いに風情〉

兪洛真……〈容姿が美しく、しかも弁が立つ〉


 著者は〈(女色に)溺れることもなかった〉というが、妓館遊びには人並みに付き合い、しかもこの〈悪習を改めたい〉と反省する人物で、だからなのか妓女評も辛辣だ。で、結論はやや説教じみていて、


 〈(しかし、遊里に)惑うことのもたらす大きな災いは、その(高いかけ橋やけわしい谷の)危険な道よりもはなはだしいのに、どうして人に(近づかないよう)戒めることができないのであろうか〉


 そんなこと、言われてもねぇ。

 「教坊記」でも言う。


 〈いったい、清くいさぎよい美しさを自らの道とする者は少なく、驕り淫らな醜さにのめりこむ者は多い。どうしてか。志が低く、欲求が強いからである〉


 身も蓋もないですな。

 ただ総じて言えることは、「教坊記」でも「北里志」でも、妓女への評価は、容貌よりもむしろ、受け答えや立ち居振る舞いに対してポイントが高くなっている。そうだよな、男は女性に対してこれを求めているんだよなと、勝手に独りごちたのでした。求めているからこそ、〈危険な道〉にフラフラと向かってしまうのでしょう。

本を読む

『教坊記・北里志』(崔令欽・孫棨著、斎藤茂訳注)
今週のカルテ
ジャンル風俗
時代 ・ 舞台700年代後半~800年代後半の中国(唐)
読後に一言男とは勝手な生き物であると、強く反省した次第です……。
効用当時の色街の賑わいの様子がよくわかります。一級の風俗資料として。
印象深い一節

名言
音楽や女色に溺れれば、必ず命を縮めることになるのに、そのことを考えない(「教坊記」)
類書唐の長安と洛陽の都城誌『唐両京城坊攷』(東洋文庫577)
妓女たちも数多く登場する『唐代伝奇集』(東洋文庫2、16)
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