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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 647

『ペルシア民俗誌』(A.J.ハーンサーリー、サーデク・ヘダーヤト著、岡田恵美子、奥西峻介訳)

2010/09/30
アイコン画像    イラン人女性のしたたかさ、生き抜く知恵がここに! イラン民俗世界を描いた二大古典。

 「ペルシア」と聞いたら絨毯しか思い浮かばない私だが、現在の国名の「イラン」と聞けばそこそこ距離は近くなる。

 実際、日本との関係は古く、1880(明治13)年にはすでに政府関係者が派遣され、〈1926年(大正15)に外交関係が結ばれ、領事館が開設された〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)。しかも、〈日本はイランの最大の輸出相手国〉(同前)なのだそうだ。

 そこで、さらなるイラン理解を深めるために手に取ったのは、『ペルシア民俗誌』なのである。

 やや四角張ったタイトルだが、中身は仰天モノである。2つの翻訳物の合本で、ひとつは女たちが女の風習を論じる『コルスムばあさん』(17世紀末)、もうひとつは1933年刊の近代民俗誌『不思議の国』。特に『コルスムばあさん』の方は、いわゆる女性の井戸端会議風と申しますか、毒舌たっぷりの本音集と申しますか。その一端を開陳すると……。

〈(妻は)夫の母、夫の姉妹、夫の兄弟の妻に対しては敵意を抱くべきである〉

 日本ならば建前で「仲良くしよう」と説くところであるが、イランではそうじゃない。しかもこうあおりたてる。

〈彼女らの間に口論がおきた時は、双方の悪口をいって彼女らをたきつけ、双方の怒りを最大限に高めなければいけない。その上もし可能ならば、それぞれ相手の陰(ほと、女性器)を噛みきるくらいに二人をもっていけたら大いに功徳がある〉

 「相手の陰を噛みきる」なんて壮絶な言い方、比喩だと思うでしょ? ところが、現実に起こり得るらしい。

〈万が一妻の陰が傷ついたとしたら、夫との交わりの時、それが小姑の仕業だといいつけること〉

 そうすれば夫と小姑の仲が険悪になり、万事OK、ということらしい。どうです、凄まじいでしょ? これを「イラン女性の知恵」としていいものかどうか。

 イスラム国であるイランは、女性のへジャブ(顔を覆うスカーフ)が義務づけられ、世界でも議論の的となっているが、どっこい、イランの女性は強かった! 女性差別云々の前に、彼女たちは生活力と知恵があった。『コルスムばあさん』を読んでいると、あるいはへジャブは、その強さを覆い隠すためのものだったのかも、と思わせる。あのスカーフの下で、いろいろな意味の笑みを浮かべているのだとしたら、見方が変わりませんか?

本を読む

『ペルシア民俗誌』(A.J.ハーンサーリー、サーデク・ヘダーヤト著、岡田恵美子、奥西峻介訳)
今週のカルテ
ジャンル民俗学/風俗
時代 ・ 舞台17世紀末~20世紀のイラン
読後に一言イラン人女性は強かった!
効用イランとイスラム世界がぐぐぐっと身近になります。
印象深い一節

名言
クモの糸が糸のようになめらかなら、旅立ちの印である。(「不思議の国」)
類書道徳+職業別エピソード『ペルシア逸話集』(東洋文庫134)
フランス人による17世紀の記録『ペルシア見聞記』(東洋文庫621)
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