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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 71|75|85

『アラビアン・ナイト1~3』(前嶋信次訳)

2013/02/28
アイコン画像    パートナーの良し悪しで、運命は変わる?
半年でアラビアン・ナイトを読み切る(1)

 さあ、月イチで送る、「半年でアラビアン・ナイトを読み切る」シリーズ、第1回である。

 「シンドバッドの冒険」など、個別に知っている物語はあっても、『アラビアン・ナイト』の全体を把握している人は少ないはずである。さて、どんな構造なのだろう。

 ざっくり言うと、物語のきっかけは、シャハリヤール王とその弟(別の国の王)が、それぞれの妻の不義密通に気づいてしまった、というところから始まる。 兄弟は2人で失意の旅に出るのだが、途中イフリート(魔王)に遭遇する。樹上で隠れていると、イフリートは寝てしまうのだが、その妻(絶世の美女)に見つかってしまう。その女が言うには、自分を抱いてくれなければ(本書いわく、〈はげしいひと突き〉)、魔王を起こすと言う。仕方なく2人はその女を抱くと、女は王たちに570個の指輪が連なった数珠を見せる。自分を抱いた男たちからもらった指輪だと言って(つまり、570人と浮気した、と)。その後の女の台詞がふるっている。


 〈あいつめ知らないのですよ、あたくしども女ってものが、なにかしてやろうって、こう思いこんだら、どんなものだってひきとめることはできないってことをね〉


 シャハリヤール王、絶望的に女性不信に陥る。で、どうしたか。女性への復讐を誓うのである。宮殿に戻るや、妻を殺害。その後は新しい妃を娶り、一夜契ると殺す。その繰り返し。その国の若い女性が逃げてしまい激減する。で、登場するのが物語の主役兼語り手のシャハラザード(大臣の娘)だ。殺される妃として送り込まれたのである。シャハラザードは王に頼み込み、「別れをしたい」と妹を呼び寄せる。妹は、打ち合わせ通り、こう切り出すのだ。


 〈お姉さま、是非にものお願いでございますが、なにか面白いお話しをなすって下さいませ〉


 寝物語のスタートだ。が、物語の途中、夜は明け、話は閉じられる。妹は姉の話を褒めはやすが、姉いわく「次の晩の話のほうが面白い」。シャハラザードの話に魅了されていた王は、「続きを聞いてから殺そう」と思い直す。カンのいい方はお気づきですね。このような物語(枠物語)が1001夜続くから、「千夜一夜物語」というわけ。

 伴侶に裏切られた王と、援護射撃する妹という絶好のパートナーのいる姉。好対照である。矮小化し過ぎかも知れぬが、パートナーの良し悪しで運命は変わる、と説いているように、私には思えたのでした。

本を読む

『アラビアン・ナイト1~3』(前嶋信次訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
時代 ・ 舞台中世のアラビア(イラン、イラク、エジプト、シリアなど)
読後に一言“復讐心”よりも“好奇心”は勝る、ということなのでしょう。
効用訳者前嶋信次の「あとがき」を読むだけでも、豊穣な物語の世界を感じ取れます。
印象深い一節

名言
「ねえお姉さま、お姉さまのお話ってなんて素晴しいんでしょうね。それにこの上なく心をなごませ、楽しませ、魅力的なんですもの」(第二夜)
類書インドの11世紀の枠物語『屍鬼二十五話』(東洋文庫323)
中世インドの枠物語『鸚鵡七十話』(東洋文庫3)
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